なぜ430ヘルツなのか?

ヘルツ(Hz)は音の周波数を表す単位で、1秒あたりに繰り返される音の振動数を表しています。現在、雅楽・声明はA(黄鐘)=430ヘルツで標準化されています。

明治6年(1873)、当時の文部科学省に相当する部署が、英国の音響学者エリス(1814~1890)を招聘して、当時の宮内庁楽部の雅楽の周波数を調べています。その周波数はA(黄鐘)=437ヘルツでした。
昭和14年(1939)ロンドン国際会議でA=440ヘルツと定めた「万国標準高度」(ユニバーサルピッチ)と極めて近いものでした。また、安政6年(1859)パリの国際会議でA=435ヘルツと定められた「国際高度」と比べても近いものです。

 430ヘルツが定められたのは、日本雅楽会の初代会長である押田良久氏によって昭和48年(1973)です。押田氏は合奏練習中に笙奏者の音が異なっていたことに気づき、洋楽のAの音に相当するのは、雅楽では黄鐘の音に近いので、洋楽の440ヘルツに対して、どのくらいの振動数が正しいのか調べました。大体のところで黄鐘を430ヘルツとし、これを基準として計算で割り出し、平調の音を645ヘルツとし、昭和43年8月にビブラフォーンや木琴などの有鍵打楽器の製造をしているコッス楽器研究所に依頼して、その音叉を10本製作しました。その音叉を京都で雅楽の龍笛を作っている福田泰彦氏に一本送って、正しい音にあっているかどうか調べてもらいます。
 家に代々伝わっている笛の長さに吹口と指孔のところを目盛りにした物差しを基準にして制作しておられたので、今までは目で作っていた龍笛と音叉の平調が645ヘルツでピッタリと音があったと返事をいただき、これで自身をもっての雅楽の標準音高が決まったと「雅楽とその標準ピッチの決定 日本雅楽会会長 押田良久」『伝統と文化』に書かれています。
 音叉やチューニングバーの普及もあり雅楽だけでなく声明に於いても430ヘルツで唱えることとなったと思われます。



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